今週の一枚 04 Limited Sazabys『SOIL』

今週の一枚 04 Limited Sazabys『SOIL』 - 『SOIL』通常盤『SOIL』通常盤
メジャーデビュー時にリリースしたのが、1stフルアルバム『CAVU』。武道館ワンマンを数ヶ月後に控えたタイミングでリリースしたのが、2ndフルアルバム『eureka』。思えば、このバンドのフルアルバムには、目的地に辿り着くための明確な意志表示を孕むものが多かった。このようにステップアップを重ねながら、彼らは、名古屋の小さなライブハウスから地道に勝ち上がってきたのだ。

そして今回リリースするのが、3rdフルアルバム『SOIL』。結成10周年を迎えたフォーリミは、初のアリーナツアーなど華々しい活動が続いていたし、「AIR JAM 2018」でトリ前の重要な立ち位置を任せられたりと、周囲からさらなる期待を寄せられている。実際、先発シングル曲“Squall”、“My HERO”は「背負うこと」に自覚的な彼ららしい、メッセージ性の強い楽曲だった。

しかし今作が映し出すのは、これまでで最も気負っていない、だからこそ研ぎ澄まされたバンドの姿だった。例えばボールを投げる時、身体が力んでいない方がポーンと飛んでいきやすいものだろう。それに近いイメージである。

久々の全編英詞曲である“message”をはじめとした冒頭3曲で聴き手とガッチリ握手を交わしたあと、今作はとても開放的な展開をする。各楽器&ボーカルのフレーズは、待ってました!と拍手したくなるような鉄板のものと、ちょっと意外性のある方向に進んでいくものとがバランスよく配置されている。GEN(B・Vo)の書く歌詞は十八番のリズミカルな押韻が炸裂しまくっていて痛快に思えるほど。また、現在地から「あの頃の自分」を捉えるような視点も冴えわたっている。前2作に比べると時代やシーンに対する意志表示的な側面は薄いが、かえって独自性が際立つようになっているのが面白いところ。このバンドならではの発明品――日本語を如何にしてパンクロックに乗せていくかというトライ、音は明るいけどそれだけではない引っ掛かりのあるような歌詞の温度感――がより光るようになった感じがあるのだ。

『ROCKIN’ON JAPAN』11月号掲載のインタビューによると、新曲群の制作が本格的に動き出したのはアリーナツアーが終わってからだったのだそう。振り返れば、4月、「YON FES 2018」が終わった後のインタビューでメンバーは「尖るのがすべてではない」、「かといって丸くなりたくもない」と葛藤していた。その数日後、横浜アリーナのステージ上でGENは、自分たちは普段着のままここまでやってきたロックバンドであり、それを誇りに思っているのだと言っていた。さらにアリーナツアー終了後には、背伸びせず、ありのままを判断してもらうのが一番だという話をしていた。そうして導き出した答えが今作に直結している。

以前GENが言っていた「今まではただのバンドマンがヒーローになる物語でしたけど、ヒーローになってからが本編です」という言葉、いよいよ現実味を帯びてきたのではないだろうか。『SOIL』とは「土壌」の意。五月雨や流星群に降られ強固になった大地の上、彼らの立ち姿は自信に満ち溢れているようだ。(蜂須賀ちなみ)
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