今週の一枚 THE ORAL CIGARETTES『UNOFFICIAL』

今週の一枚 THE ORAL CIGARETTES『UNOFFICIAL』 - 『UNOFFICIAL』初回盤『UNOFFICIAL』初回盤

『ROCKIN'ON JAPAN』2017年2月号のTHE ORAL CIGARETTES全員インタビューの中で、山中拓也(Vo・G)はニューアルバムのタイトル『UNOFFICIAL』について「まずステージに立っている僕がOFFICIAL、それ以外の僕がUNOFFICIALっていう定義をして。で、今回の歌詞はこのUNOFFICIALの部分を歌詞に落としてることが多かったんですよ」と説明している。創作の苦悩と狂気が率直に注ぎ込まれた『5150』というシングルの先に、より強い表現意欲の形を捕まえていたことが分かる発言だ。

他者と関わりながら社会で生きてゆくとき、我々は何らかのポーズを決め込んでしまいがちだ。見せたくない部分は見せなくて済むし、他者とのちょうどいい距離感を見つけた方が楽な気がしてしまう。でも本当は、他者と関わりながら本気で何かを成し遂げたいときほど、すべてを曝け出してその場に臨まなければならない。ポーズだけで何もかもクリアできるほど、世の中は甘くない。自分の見せたくない部分も見せなければならない。小さい頃に他人の顔色ばかり窺って毎日を過ごしていた僕は、ロックに出会って「あ、ぶっちゃけた方がいいんだ」ということを教わった。

メンバー間の幸福な緊張感が、かつてないレベルの精度と密度に達したTHE ORAL CIGARETTESのニューアルバム『UNOFFICIAL』は、つまり山中が歌詞に落とし込む「UNOFFICIAL」なぶっちゃけを、どれだけロックバンドの音に変換できるか、という取り組みだったのだと思う。バンドにしか出来ないことだし、渾身のフレーズを編み出して互いに突きつけあう、その緊張感の中にこそロックバンドの必然が宿されている。

焦燥感を抱えたまま他者との関わりに踏み込んで行くアルバム冒頭の“リコリス”から“5150”までのパンチは強烈だが、僕はそれ以上に、悲しみに踊るギターフレーズがメッセージ性を強調する“WARWARWAR”や、綺麗事では済まされない心のすれ違いをエモーショナルなスウィンギングルーヴで描き出した“Shala La”が好きだ。歌の物語はとても個人的な情景から始まっているが、それをバンドとして共有することで、哀愁と背中合わせの色気を振りまく、オーラルのロックンロールが完成している。

そして、これシングルにしなくて良かったのかというタイムレスな名ロッカバラード“不透明な雪化粧”から、最終曲“LOVE”の流れは、もはや説明不要、聴けば分かる完璧なクライマックスである。ポーズの向こう側でロックバンドの理想を鳴らしてみせた、素晴らしいアルバムだ。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2017年3月号に掲載されている山中単独インタビューでは、メンバーとの確かな緊張感をもって活動に臨む今の姿勢が語られているので、ぜひチェックしてほしい。(小池宏和)
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