今週の一枚 ブライアン・ウィルソン『ノー・ピア・プレッシャー』

今週の一枚 ブライアン・ウィルソン『ノー・ピア・プレッシャー』

ブライアン・ウィルソン
『ノー・ピア・プレッシャー』
4月8日発売

2012年に50周年を記念して約20年ぶりに5人編成のビーチ・ボーイズ復活。新作のみならず、日本も含めたツアーは世界的に大絶賛。その天からの光を浴びるようなハーモニーは世界で大いに祝福された。が、その途中でなんと、ブライアン・ウィルソン抜きで、世界ツアーが続行されることをマイク・ラヴを中心としたメンバーが発表。しかも、ウィルソンはそれを知らなかったという事実は、喜ばしき瞬間に、大きな傷を残した。そして、本来はその復活したメンバーでレコーディングしようとウィルソンが計画していたのが今作『ノー・ピア・プレッシャー』だ。

ビーチ・ボーイズとしてのレコーディングが実現せず、「さて?」と思った彼が、ズーイー・デシャネル(シー&ヒム)や、ラナ・デル・レイなどのガールズにも声をかけ、「自分の子供達の聴いている音楽から知ることになった新世界のアーティスト」を思い切って起用した。そのおかげでウィルソンが弟のカールに声が似ていると太鼓判のfun.のネイト・ルイスなどがメイン・ボーカルを担当するという予想外かつ魅力的なコラボ曲が誕生した。とりわけ、セブ・シモニアンが参加した曲などは、ダンスチューンになっていて思いきり驚く。それは、新世代にアピールするための試みというより、これまでに何度もカバーされてきたウィルソンのポップ・ソングのその普遍性を境界線を超えることで実証するような楽曲になっている。ページをめくる度に様々な形で飛び出してくるポップ・アップ絵本をめくるような楽しさに溢れているのだ。

とは言え、ページをめくる手を止めてしまう曲はやはり、元ビーチ・ボーイズのメンバー、アル・ジャーディンなどが参加した曲で、例えば、”Sail Away”。「60年代のビーチ・ボーイズのハーモニーを再現しようとした」曲で、「オーバーダブを5回し、結果20のボーカル構成」で完成。または、“Our Special Love”など、そのハーモニーが空から舞い降りてくるような瞬間なのだ。しかし極めつけは、最後の曲、その名も“Last Song”というピアノのバラード。ラナ・デル・レイのボーカルもあったそうだ。が、結果的には、バンドの解散について歌う歌としてウィルソンのボーカルで完成。「また君たちと一緒に歌うために帰ってくるかもしれないけど」「いつだって愛するものに対する時間は足りないから」と。“最後の曲”というタイトルに込められた真意も大いに気になるところだが、あまりに悲しく美しい曲なのだ。つまり、今作は、60年代のビーチ・ボーイズの最高の瞬間を再訪しながらも、それに別れを告げているような、ポップの輝きは増しながらもその切なさに心が張り裂けるような作品なのである。
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする
フォローする