日経ライブレポート「ナイン・インチ・ネイルズ」

去年のフジロックにおける、雷雨の中での壮絶なパフォーマンスの記憶がまだ生々しいこの時期に、今度はライヴ・ハウスでの公演が実現した。前回のライヴから半年しか経過していないので、基本同じ輪郭のライヴ内容になるのではと思っていたが、全く違っていた。

フジロックでは、何枚もの移動式のプロジェクター・パネルがステージ上を動き回り、これまで見たこともない視覚的なスペクタクルを展開して、ある意味このバンドの物語性、観念性が強調されたステージだった。しかし今回は、洪水のような光の演出はあるものの、それは物語性や観念性を演出するものではなく、音とシンクロしながら、バンドの肉体性を強調するものになっていた。

フジロックはバンドの活動休止が終わり、再びナイン・インチが動き出すスタートのライヴだった。そこからワールド・ツアーが行われ、バンドがバンドとしての肉体を再び獲得したことによって、こうしたライヴになったのだろう。期待以上の攻撃的でアッパーな演奏に、客席の反応も熱かった。

バンド形式にはなっているが固定メンバーはトレント・レズナー1人である。バンド休止期間中もトレント個人の活動は活発であった。そのトレントがあえてナイン・インチ・ネイルズというバンド名で活動するのは、バンドである必然が表現の中にあるからだ。今回のライヴでは、その必然がバンドの肉体性であった。多くのものがデジタル化する現在のポップ・シーン。それを早くから実践していたナイン・インチの肉体への回帰が印象的なライヴだった。

2月25日、新木場スタジオコースト
(2014年3月6日 日本経済新聞夕刊掲載)
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