大傑作『ひみつスタジオ』を引っ提げたツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”」。4人の音楽の喜びに満ちた日本武道館公演2日目を速報レポート!

大傑作『ひみつスタジオ』を引っ提げたツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”」。4人の音楽の喜びに満ちた日本武道館公演2日目を速報レポート! - All photo by 西槇太一All photo by 西槇太一

●セットリスト
01. めぐりめぐって
02. ときめきpart1
03. けもの道
04. 跳べ
05. 紫の夜を越えて
06. 大好物
07. チェリー
08. 青春生き残りゲーム
09. 手鞠
10. i-O(修理のうた)
11. みなと
12. 楓
13. サンシャイン
14. 未来未来
15. 夜を駆ける
16. 俺のすべて
17. 美しい鰭
18. オバケのロックバンド
19. 甘ったれクリーチャー
20. 8823
21. 涙がキラリ☆

Encore
EN1. 僕の天使マリ
EN2. 醒めない


1月12日、スピッツが日本武道館でワンマン公演を開催した。2023年6月から始まった全45公演を回る全国ツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR '23-'24 “HIMITSU STUDIO”」の東京公演。日本武道館での公演は2日間にわたって開催されており、1月12日は、その2日目の公演に当たる。

スピッツの新たな代表曲とも言うべき浸透力を持った“美しい鰭”や、草野マサムネ(Vo・G)、﨑山龍男(D)、田村明浩(B)、三輪テツヤ(G)の4人全員がメインボーカルを取ることで、「スピッツはこの4人だ」という根本的な事実を表明しながらも新しい表現領域を開拓した“オバケのロックバンド”など、みずみずしい魅力を放つ楽曲たちが収録された通算17作目のフルアルバム『ひみつスタジオ』。今回のツアーは本作のリリースツアーであり、それゆえにセットリストには『ひみつスタジオ』収録曲がたくさん名を連ねていたが、それだけではなく、“チェリー”や“楓”といった誰もが知る大名曲たちから、“サンシャイン”や“僕の天使マリ”といった1990年代前半に生み落とされた初期の名曲たちまで、アンコールも含めて全23曲が披露された。

この日の武道館公演はちょっとしたハプニングで幕を開けた。開演時刻を迎え、まずステージに上がったのは三輪。そして、少しあとにサポートのクジヒロコ(Key)もステージに上がる。しかし、ふたりがステージに立った状態で沈黙が続く。後のMCで触れられたことによると、どうやらステージ裏でイヤモニのトラブルが起こっていたらしい。しかしそこはさすがに熟練のバンド、動じた様子は見せずに態勢を整えると、草野、田村、﨑山もステージに登場し、演奏が始まる。興奮と緊張で静まる空間を切り裂くように奏でられた1曲目は“めぐりめぐって”。『ひみつスタジオ』の最後に収録されていた楽曲であり、歌詞ではまるでバンドからリスナーへの愛情を綴っているような、祝祭感に満ちた1曲である。暗かった照明も一気に明るくなり、武道館は喜びの音楽空間へと変貌する。続けて2曲目は、こちらも『ひみつスタジオ』からのレパートリーである“ときめきpart1”。ここでメンバーの背後に設置されていた大小様々な大きさのモニターが起動して、メンバーの表情や手捌きを鮮明に映し出していく。さらにバンドは田村の強烈なベースプレイを起点にアグレッシブな“けもの道”を披露、立て続けに衝動的なロックチューン“跳べ”、そして“紫の夜を越えて”と演奏を続けていく。
このライブ序盤を体感しただけで、この日のスピッツが、いや今のスピッツが、最高のモードにいることが伝わってくる。ダイナミックな演奏も素晴らしく、草野の歌声にも力強さが滾っている。それらを鮮明に伝える音響も素晴らしい。

大傑作『ひみつスタジオ』を引っ提げたツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”」。4人の音楽の喜びに満ちた日本武道館公演2日目を速報レポート!

「楽しい夜にしますので」――そんな草野の言葉に引き続き始まった“大好物”や、桃色の柔らかな照明に包まれながら披露された“チェリー”、ヘヴィなロックサウンドで会場を揺らした“青春生き残りゲーム”など、多彩な音楽性で会場を彩りながら、スピッツにしか生み出し得ない清々しくて、甘やかで、温かくて、熱い、奇跡のような空間が広がっていく。スピッツのライブではお馴染みの、メンバー同士が「素」で喋るゆる~いMCはこの日も健在で、10年ほど前に初めて日本武道館で単独公演を行った時のことを回想しながら、草野は「10年前の武道館の時はTOKIOの武道館ライブのDVDを参考にしたんだけど、今回はWOWOWでやっていた、矢沢永吉さんの武道館ライブの生配信を観てきました」と語っていた。しかし、そんな発言に引き続いて「次は、矢沢さんにはなさそうな曲を。スピッツはスピッツのやり方でやっていこうと思います」という草野の言葉と共に始まったのは、『ひみつスタジオ』収録曲の“手鞠”。穏やかなメロディの中にも躍動感のあるリズムが心地よく響く。“手鞠”は確かに永ちゃんにはなさそうな楽曲だが、しかしながら、《かなり思ってたんと違うけど/面白き今にありついた》なんて歌うこの曲は、とてもスピッツらしい形で「やんちゃさ」が表現されている1曲である。
そして優しいメロディが響き、“i-O(修理のうた)”へ。きっと、多くの人が『ひみつスタジオ』を再生した時に、1曲目に収録されたこの曲の穏やかなイントロに心癒やされたことだろう。この曲では、ドラムセットの横に佇むロボット「i-O」にもスポットライトが当たる。『ひみつスタジオ』のジャケットにも登場している、あのロボットである。この“i-O(修理のうた)”の歌詞の世界観は、ジャケットに込められた物語に紐づいているのだ。

続くMCでは、2023年のスピッツ主催レギュラーイベントでカバーされていた藤井 風“きらり”が少しだけ演奏されたり、ゆず“栄光の架橋”や新しい学校のリーダーズ“オトナブルー”のメロディに“チェリー”の歌詞を乗せる「半分スピッツ」なるものが披露されるなど無邪気に音楽と戯れる姿も見せつつ、続けてバンドは“サンシャイン”“未来未来”“夜を駆ける”を披露。まるで別世界に誘われるような没入感を演出すると、﨑山の強烈なドラミングが響き渡り、“俺のすべて”へ。視界が一気に開けるような、華やかで光に溢れた景色が広がる。草野はハンドマイクでステージ上を歩きながら歌い上げる。
「今日という日に辿り着けて本当によかったです」――“俺のすべて”の興奮の余韻が残る中、MCで草野はそう語り始める。「中学2年の時にスケートボードが欲しかったけど、同じタイミングでエレキギターも欲しくなって。悩んだ末にエレキギターを選んだことで、ここに俺はいます」そう草野が語ると、会場からは大きな拍手が巻き起こる。そして続ける。「スケートボードが欲しかった願望は、ああして大きなスケートボードになって……」とステージ脇に設置された巨大なスケボーのセットに目をやり、さらに「ロボコンやゲッターロボの超合金が欲しかった願いが、こうなりました」と笑いながら語り、ドラムセットの横に佇むi-Oに目をやった。一度、人の心に宿った想いは、どんな形であれ残り続ける。そんなことを感じさせる場面だった。

そして、美しい抑揚を描く“美しい鰭”、4人全員で歌い繋ぐ“オバケのロックバンド”と『ひみつスタジオ』を象徴する楽曲たちを披露すると、ライブはラストスパートへ。“甘ったれクリーチャー”で会場の熱をさらに高めると、ライブの必殺ソング“8823”で武道館をさらなる熱狂の渦に巻き込み、最後、“涙がキラリ☆”によって本編は締め括られた。

大傑作『ひみつスタジオ』を引っ提げたツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”」。4人の音楽の喜びに満ちた日本武道館公演2日目を速報レポート!

アンコールでは“僕の天使マリ”を軽快に披露すると、メンバー紹介も兼ねたMCへ。田村は「武道館は自分たちがやる場所だとは思っていなかった」と語りながら、10年前に開催された怒髪天の武道館ライブに感銘を受けたこと、そして、その後もフラワーカンパニーズTHE COLLECTORSニューロティカピーズといったスピッツと近い世代のバンドたちが武道館公演を成功させる姿を見て、武道館でライブを行うことに対しての意識が変化したことを語っていた。そして、このライブの手応えについては、「“俺のすべて”で楽しすぎて、今まででいちばん弾いてない。トラブルで音が出なくなったことはあるけど、今日は意識して弾かなかった」とぶっちゃけ、草野から「弾けよ」としっかりとツッコミが入り、会場が笑いに包まれる。草野は「また武道館のステージに立てるように。武道館に立てなくても、長く続けていくと思うので。忙しい時は忘れていいので、思い出した時に会いに来てくれたら嬉しいです」と、観客たちに想いを伝えた。
そして、アンコールの最後に“醒めない”が披露され、醒めない夢を生き続けるロックバンドが生み出した魔法のような時間は幕を下ろした。また、めぐりめぐって出会える日まで、私たち一人ひとりが生きる力を持てるように――そんな想いが溢れ続けるような、素晴らしいライブだった。(天野史彬)


なお、1月30日発売の『ROCKIN’ON JAPAN』3月号では、表紙巻頭の大ボリュームで、本公演のロングレポートをお届けする。写真、レポート共にさらに深く「HIMITSU STUDIO」ツアーに迫っているので、そちらもぜひ確認してほしい。


スピッツが『ROCKIN'ON JAPAN』3月号(1/30発売)表紙巻頭に登場!
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