All photo by 橋本歩●セットリスト
01. ジャンプ
02. Blue Velvet
03. more
04. A Song for You
05. サマータイム
06. フーチークーチーウーマン
07. I Can’t Quit You Baby
08. 瓶とスコール
09. 朝日のあたる家
10. 泣いたのは数秒だった
（アンコール）
11. Because the Night
12. Paint It Black
13. ハイエナ
『CUT』主催によるトーク＆ライブ複合イベント「CUT NIGHT」vol.17が10月9日、ライブスペース・池袋harevutaiで開催された。渋谷陽一によるトークライブは「70年代ロックの復権」がテーマ。若い音楽リスナーも、ベテランのロックリスナーも、視界がクリアになり胸が熱くなるような、今のポップ・ミュージックを読み解く上で有効な70年代ロック解説がたっぷり語られた。そして山田ルキ子名義による本誌映画コラムでもお馴染み、lukiのライブがスタート。
このCUT NIGHTの中で、独自の視点の日本語詞で解釈した洋楽の名曲カバーのレパートリーを増やしていき、今年の４月には、それらの楽曲を中心に構成したワンマンライブ「新古今洋歌集」が大きな盛り上がりを見せたluki。この日のライブは、それらの洋楽カヴァーと彼女のオリジナル楽曲が、お互いを豊かに高め合うように美しく溶け合いながら展開していった。『新月とコヨーテ』収録の“ジャンプ”からトニー・ベネットのカバー“Blue Velvet”への流れでは悲しみを愛で包みこむようなグルーヴに呑まれ、『ユナイタマ』収録の”more”からダニー・ハサウェイのカバー“A Song for You”への流れでは心のひだの奥の深いところにある琴線を鷲づかまれるといった具合に。
この日の新規カバー曲は”サマータイム“。様々な解釈でカバーされてきたスタンダードソングを、このバンドとlukiの歌だから表現できる音楽的解釈で堂々と料理して見せる。前半のMCで「今日しか生み出せないケミストリーを楽しみたいと思います」と彼女は語っていたが、この日は特に円山天使（G）、山本哲也（Key）、張替智広（Dr）が紡ぎ出すサウンドも、その上を泳ぐlukiの歌とハープも、今この瞬間、このバンドだから鳴らせる音を探ることを自在に楽しんでいる感じがした。そのケミストリーがスリリングで、エモーショナルで、ひたすら気持ち良いのである。
“フーチークーチーウーマン”“I Can’t Quit You Baby””瓶とスコール”“朝日のあたる家”という後半の流れで最高の空気ができあがった本編ラストで披露されたのが、lukiにとって久々のオリジナル新曲“泣いたのは数秒だった”。ここまでのライブで見せられた音楽の魔法が凝縮されたような素晴らしい曲。深い喪失感の底から真実の愛が浮かびあがってくるlukiの歌世界の真骨頂が2023年ならではの新しいポップ・ミュージックとして形を持った感じがして感動的だった。
これだけ濃厚な本編の後、３曲のアンコールでさらに会場の熱を上げていったことからも、ライブの厚みが格段に増していることが感じられる。lukiがアーティストとして明らかに新たなフェーズに突入したことが感じられる一夜だった。（古河晋）
