TOKYO 2020開会式が開催されるはずだった昨年7月24日、無観客のNHKホールを舞台に、最新の演目「Live Tour ２Ｏ２Ｏ ニュースフラッシュ」を実演した東京事変。9月に映画館上映＆配信された同公演を映像作品化した今作が伝えてくるのは、5人の類稀なる表現者が体現する「ポップのスリル」の戦慄必至の精度だ。東京事変「再生」の嚆矢となった楽曲“選ばれざる国民”の、鋭利な批評性と張り詰めた緊迫感すらも心地好く愉しんでみせるようなしなやかなアンサンブル。アグレッシブな高揚感に満ちた“永遠の不在証明”が描き出す、「解けない謎」としての音楽の背徳的な快楽性――。拍手も歓声もない大空間の中、幾度も装いを変えながら妖艶な歌を響かせる椎名林檎が、一音一音を研ぎ澄ませるように繰り出す亀田誠治／刄田綴色／浮雲／伊澤一葉が、困難な状況に不屈の音楽家の矜持をもって抗う姿を収めた、まさに永久保存版の作品。ステージ全景を定点カメラで収めた特典映像＝「academic view２Ｏ２Ｏ」は、ライブ全編を客席から観ているような不思議な感激を与えてくれるはすだ。（高橋智樹）

『ROCKIN'ON JAPAN』5月号より