原発再稼働、安保法制、国民の半数以上が反対する政策を進める安倍内閣の支持率が上がり続けるのは何故なのか?

原発再稼働、安保法制、国民の半数以上が反対する政策を進める安倍内閣の支持率が上がり続けるのは何故なのか?
以下は現在発売中のサイトに書いた僕の巻頭言だ。



漠然とした不安感や危機感は広まり強まっているのに、それを言語化できないまま状況は悪化している。

安保法制に反対する人が国民の半数を超え、憲法学者のほとんど9割以上が違憲と判断したにもかかわらず、法案は通ってしまった。たくさんの人がデモに参加し、国会前に集まったが事態は変わらなかった。落ちたとはいえ安倍内閣の支持率は安定している。これは一体何なのだろう。

原発再稼動にも国民の半数以上が反対であるし、安倍政権の看板の経済政策も支持しない人が増えている。いよいよ安倍自民を支えるものはなくなってきている。しかし7月の参院選における自民党の敗北を予想する人は少ない。それどころか安倍首相は年内解散、もしくは同日選をチラつかせて憲法改正できる議席数獲得を狙っている。

今回、取材していく中で印象に残ったのは世田谷区長選で再選された保坂展人さんが、自分の選挙戦で「安倍NO」をNGワードにしたというエピソードだ。

保坂さんは「せたがやYES!」というメッセージを揚げ、無所属にもかかわらず自公推薦候補の倍以上の票を集め圧勝した。一貫して反自民、革新の姿勢で政治活動を続けてきた保坂さんなので、まさに「安倍NO」は一番似合うコピーなのだがあえてそれをNGワードにした。その真意は是非インタビューを読んでいただきたい。

今の政治状況を考える時、保坂さんが「安倍NO」をNGワードにしたことは、とても示唆的だと思う。簡単に言ってしまうと、今有権者が聞きたいのは「NO」という言葉ではなく「YES」という言葉なのだ。つまり有権者は保坂さんの「せたがやYES!」という言葉に共感したのだと思う。

民主党政権の時、有権者が失望したのは民主党の「YES」を実践する能力の低さだった。自民党への「NO」という民意を背負って登場した民主党政権は、政策的にも政治運営的にも能力不足を露呈し崩壊してしまった。有権者がここで学んだのは「NO」だけでは政治は動かないということだった。その教訓が今の有権者の投票行動を規定している。

今度の参院選に向けて野党は「安倍NO」を最大のメッセージにしている。民主と維新が一緒になったのも「安倍NO」の一点であるし、野党共闘も「安倍NO」が最も重要なテーマだ。しかし有権者は、世論調査などを見ると野党共闘はそれなりに評価するものの民主党と維新の党が作る「民進党」には厳しい評価を下している。とても冷静だし、正確に見ていると思う。

たとえば民主と維新が新党を作る時、党名でゴタゴタした。何故ならば「YES」で一緒になっていないからだ。大きな政治的テーマで共感したのなら、自ずとそれをテーマにした党名が生まれるはずだ。「NO」だけで一緒になっているから、民主の名前を残す残さないという、有権者から見るとがっかりなテーマで争うことになってしまう。党名さえ自分たちで決められない政党に、何を期待するというのだろう。

「安倍NO」と言っている間は、結局安倍政治の物語から脱け出すことはできない。何に対して「YES」なのかという新しい物語を書かない限り、この状況を変えることはできない。今の野党にはその戦略が感じられない。というかすべてが「安倍NO」の一点勝負になっている。有権者が求めているのは「NO」ではなく「YES」なのに、「NO」で勝負しようとしたら勝ち目はない。

たとえば今回の特集にも頻繁に登場する立憲主義という言葉がある。ある意味教科書的なこの言葉は、今回の安保法制の論議の中で強い力を持った。それはこの言葉には「NO」ではない「YES」の力があるからだ。「違憲」という「NO」に続いて「立憲主義」という「YES」の言葉が生まれたことによって新しい物語が成立したのである。「護憲」という言葉に共感しなかった人も「立憲主義」という言葉には共感したのだ。こうした言葉をどれだけ持てるかが勝負を決めると僕は思う。

お前は「YES」がないというけれど、野党もちゃんと「YES」の政策を出しているし、それを一貫して主張しているじゃないか、と反論されるかもしれない。しかしその「YES」は有権者に届いていない「YES」なのだ。「脱原発」の次には、その原発のない社会イメージを提示しなければならない。それが自然エネルギーによる新しい社会ならば、それをリアルに感じさせる言葉が必要なのだ。たとえそれが夢みたいな話であっても、信じたいと思わせる物語が必要なのである。

なぜ、こうしたことを書くかといえば、今回の特集を作って、問題は自民党ではなく野党にあると強く感じたからだ。安保法制から改憲まで、現在の安倍政権の動きに対して肯定的な有権者は多数派ではない。自民党問題、安倍政権問題を多くの人は認識しているのである。だから「安倍NO」はもういいのだ。世田谷で保坂さんが自公の倍以上の票をとって勝ったのは、自公が何か失敗したせいではない。勝とうと思って候補者を立てたが歯が立たなかったのだ。それは保坂さんの「YES」が自公の「YES」に勝ったからである。今の日本で一番必要なのは自公の「YES」に勝てる、新しい政治勢力の「YES」なのだ。
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