モリッシー『ヴィヴァ・ヘイト』のメイキングをスティーヴン・ストリートが語る

モリッシー『ヴィヴァ・ヘイト』のメイキングをスティーヴン・ストリートが語る - モリッシー『Viva Hate』2012年リマスタリング盤モリッシー『Viva Hate』2012年リマスタリング盤

いよいよ4月19日の仙台公演から始まる来日公演が目前に迫ってきたモリッシーだが、4月2日にリリースされるモリッシーのファースト・ソロ『ヴィヴァ・ヘイト』リマスタリング盤について、今回のリマスタリングを監修したプロデューサーのスティーヴン・ストリートが音楽サイト、スーパー・デラックス・エディションとの取材に応えている。



スティーヴンはザ・スミス時代からバンドのレコーディング・エンジニアを務めていて、モリッシーもギターのジョニー・マーもバンドの最高傑作と認める『ストレンジウェイズ・ヒア・ウィ・カム』からプロデュースを任されるようになり、その後はイギリスを代表するプロデューサーともなったわけだが、実はこのアルバムのリリースとほぼ同時進行でジョニー・マーの脱退劇とザ・スミス解散が起きていて、スティーヴンとしては当時は寝耳に水だったためショックだったことを明かしている。



もともとジョニーがザ・スミスの活動をしばらく休むことにしたのが解散のきっかけとなったとも言われているが、スティーヴンとしてはいつものジョニーとモリッシーの間の綱引き程度にしか思っていなかったとか。ただ、当時バンドのマネージャーが解雇されることになって、これは当時のザ・スミスではそのマネジメント業務をその後はすべてジョニーが肩代わりしなければならなくなるということも意味していたので、ジョニーは相当嫌気が差したのではないかとスティーヴンは解説している。しかし、スタジオでのバンドの雰囲気はあくまでも良好だったので、解散の報せは青天の霹靂だったとスティーヴンは振り返っている。



その後、ソロ活動を模索し始めたモリッシーに対してスティーヴンが楽曲のデモを提供し、そこから『ヴィヴァ・ヘイト』の制作が始まったというが、『ストレンジウェイズ』がスミスの作品のなかでも新機軸を打ち出した作品でもあったため、『ヴィヴァ・ヘイト』もその流れを汲むことができて、モリッシーも果敢に音源に取り組んだとスティーヴンは説明していて、"ブレイク・アップ・ザ・ファミリー"のようなソウルやファンクがかったトラックにも積極的に取り組んでいくモリッシーの姿には驚いたと語っている。



ただ、モリッシーはこの時点でイギリスでは最も高い評価を受けているアーティストのひとりであったことから、一緒に作業をできるのは千載一遇のチャンスでもあり、しかし、自分にもまたモリッシーにとっても非常に大きなプレッシャーのかかる作業でもあったと打ち明けている。「ぼくとしてはリリースされて、こきおろされて、それによってパブリック・エネミー・ナンバー・ワンとして糾弾されるような、そういうことにだけはしたくないと心配だったよ。だから、シナリオとしてはものすごく神経が磨り減るものだったね。モリッシーを満足させるということは、その後、さまざまな人が学んでいったように、とても大変なことなんだ。卵の殻の上を殻を壊さずに歩いていくような、そんな気分になってくるんだよ。この時期は文字通りほかの仕事はすべて断って、共同作曲者、そしてアルバム・プロデューサーとしてモリッシーの希望に応えることに徹したよ。セッションの終わりの頃にはプレッシャーがあまりにきつくてね、胃潰瘍がいくつもできたくらいなんだ。正直言って、あれをまた繰り返すだけの体力はぼくにはもうないと思う」。



その後、アルバムからのシングル"スエードヘッド"が大絶賛され、『ヴィヴァ・ヘイト』もイギリス・チャート2位に輝くなど成功を収めたが、アルバムを仕上げた1987年の12月から"スエードヘッド"がリリースされた翌年2月下旬までモリッシーからの連絡は一切途絶えて、"スエードヘッド"がコケていたとしたら2度とモリッシーから声がかかることもなかったのではないかとスティーヴンは語っている。



声がかかったのはその後の作業を進めるためで、"エヴリデイ・イズ・ライク・サンデイ"のB面曲なども脂が乗りはじめていたと感じたとスティーヴンは説明しているが、あいにくプロデューサー印税についてこれだけの貢献をしていれば通常は3パーセントか4パーセントはもらえるものをモリッシーが1パーセントのみに固執して、この交渉を重ねていく過程でふたりの関係もこじれてしまい、その後、仕事として手を組むことはなくなったとスティーヴンは語っている。



今回のリマスタリング盤ではモリッシーの希望によって収録曲の移動などもあり、スティーヴンも必ずしも今回のそうしたモリッシー判断に賛成はしないが、今回ふたりともそれぞれに同意しないことに同意できるようになったとも語っていて、最近ではロンドンで飲んだりもしたし、メールで連絡も取り合っていると語っている。きっとこのインタヴューを読んでモリッシーはまた機嫌を損ねるだろうけど、それもまたいたしかないねとスティーヴンは説明している。
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