【本人の言葉で紐解く】宮本浩次は横山健とタッグを組んだ“Do you remember?”にどんなロックの物語を込めたのか?

  • 【本人の言葉で紐解く】宮本浩次は横山健とタッグを組んだ“Do you remember?”にどんなロックの物語を込めたのか? - Photo by 佐内 正史 宮本浩次&横山健

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2019年8月10日、16時20分。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019のPARK STAGE。パンパンに膨れ上がったオーディエンスの前に、1組の「バンド」が立った。メンバーは、ギターに横山健、ベースにJun Gray、ドラムにJah-Rah、そしてボーカルに宮本浩次。彼らは真夏の西日を浴びながら、宮本のソロ楽曲5曲にエレファントカシマシの“悲しみの果て”、“今宵の月のように”、“ファイティングマン”を加えた全8曲を披露して帰っていった。

>>ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019 宮本浩次のクイックレポートはこちら

いつものように白いシャツに黒いパンツ姿でモニターに足をかけてマイクに向かってがなり立てる宮本、だが、その横にはこれまたいつものようにディッキーズのハーフパンツを穿いて低く構えたギターをかき鳴らす横山健がいる。一見違和感しかない様に見えるが、実際にそこで鳴らされた音とステージから発せられた熱は、違和感どころか紛うことなきロックバンドのものだったと、目撃した人なら誰しもが感じたことだろう。そう、ソロといいながら、宮本浩次はここでもロックバンドをやっていたのである。

『ROCKIN'ON JAPAN』2019年10月号のインタビューで、宮本はそのステージをこのように振り返っている(以下、発言はすべて同インタビューより)。

「俺にとっては、こないだの横山健のバンドとのステージは、ほんとにワクワクして、前の日に寝られないぐらい、どういうことになるんだろうって思ってたんだけど。でも実際やってみると、あっという間に終わっちゃったんだよね。だから、自分やこのバンドの実力を100%出せたのかな?とか。ピュアな気持ちで始めて、レコーディングもほんとに楽しかったんだけど、その気持ちのままステージに立てたかっていうと、思ったよりも大人っぽい4人でそこにいたんだよね。考えすぎちゃったのかもしんないし、例によって俺が空回りしたのかもしんないんだけど。だからそういうこと。ポテンシャルは持ってるんだけど、どうやって伝えていけばいいのかなって」


昨年来、椎名林檎とのコラボ曲“獣ゆく細道”や東京スカパラダイスオーケストラの楽曲に参加した“明日以外すべて燃やせ feat.宮本浩次”、小林武史プロデュースのソロデビュー曲“冬の花”、ヒップホップに急接近した“解き放て、我らが新時代”にロックンロールな月桂冠のCMソング“going my way”……と、傍目にはほとんど脈絡がないように見える振れ幅で、エレファントカシマシでは絶対に考えられなかった表現を次々と生み出してきたソロアーティスト・宮本浩次。この横山とのコラボレーションも数ある打ち上げ花火のうちの一発かと思いきや、本人の意識としてはまったくそうではなかったらしい。「ポテンシャルは持ってるんだけど、どうやって伝えていけばいいのかな」という発言は、まるでデビューしたてで理想に体が追いついていないバンドマンのようだ。今年53歳、エレカシとして酸いも甘いも噛み分けまくってきたベテランミュージシャンとは思えない熱っぽさが、その言葉の端々には滲み出ている。

そんなROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019のステージでも演奏された――というか、そのとんでもないステージのきっかけとなったのが、10月23日(水)にリリースされるソロ2ndシングルの表題曲“Do you remember?”だ。映画『宮本から君へ』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、同作がTVドラマとして放送された際にテーマソングとして提供されたエレファントカシマシ“Easy Go”の流れを汲むようなパンクチューンである。レコーディングメンバーは前述のライブと同じ。「業界屈指の凄腕が集まったスーパーバンド」であることは事実として間違いないのだが、単に巧いとか気が利いているとかいうレベルを超えて、当たり前すぎるほど当たり前に「バンド」が鳴っているところに、この楽曲の真髄はある。

「私“Easy Go”をつくる時さ、言ったと思うんだけど、Hi-STANDARDとKen Yokoyamaと、それからグリーン・デイか、その3つが浮かんで。俺はその、パンクっていうのは自分のなかにはなかったから、一度やりたかったの。自分はメロディがものすごく好きだから、それを、ハードなああいうサウンドにのせることにすごい興味を持って。僕は日本のパンクってほんとにあぶらだこぐらいしか知らない(笑)。あぶらだこももちろん大好きで、尊敬してんだけど。まあ横山健さんからアルバムを私、ずいぶん前にいただいてて。改めて1stから全部聴いて、素晴らしかった。あとハイスタのアルバムがちょうど(エレファントカシマシの)ツアー中に出て。それもすごいかっこ良かったのね。しかも、どのバンドもすごく演奏力が高くて。だから“Easy Go”をつくる時に、それらのバンドを参考にしたのね。で、俺、ちゃんとライブ見たことなかったんだけど、前にMETROCKっていうイベントの時に、すっごいハードロックのギターが聴こえてきて、誰だ?と思ったの、最初。俺の好きな、ちょっと語弊を恐れずに言うなら、ブラック・サバスとかAC/DCとかの、往年のハードロックのサウンドを響かせながら歌ってる男がいたんだよ。それが実は横山健だったんだよね。で、それは10年ぐらい前の話なんだけど、耳に残ってたの。それと、今回の合わせ技で、彼に絶対弾いてもらいたいなっていうふうに思って」


要するに、“Easy Go”のリファレンスだったKen YokoyamaやHi-STANDARD、その本丸にソロ宮本として単身乗り込んでいって生まれたのが“Do you remember?”というわけだ。まず『宮本から君へ』という作品があり、その作品がエレカシ流パンクである“Easy Go”を呼んだ。その物語の延長線上で、同作の映画版の主題歌として“Do you remember?”が構想された。その意味では出発点はコンセプチュアルだったといってもいい。しかし、実際に楽曲を生み出していく過程で、“Do you remember?”は生き物のように躍動をし始め、そこにケミストリーが生まれる。それを宮本は「青春」という言葉で表現した。

「(“Do you remember?”は、)道筋が最高だったんですよ。これを、歌詞のない段階で、2日連チャン6時間の練習をして。横山さんっていうスペシャルなギタリストがいて、で、Jun GrayやJah-Rahっていう、今まで経験したことのなかった、まあ歳の近いほぼオーバー50の、でもスペシャルなバンドマンたちと出会って。健さんは10月生まれなんで、まだ49なんだけど。だから50の青春じゃないけど、そのまま音になってる。それぞれ、ミュージシャンとしても、それなりにちゃんとっていうか、それなり以上だよね。非常に現役感もあるけれども、これだけのキャリアを持ってる4人が、緊張して敬語で話してるみたいなところも含めて。で、健さんと地下のスタジオに集結して。その道筋が非常に面白かった。何か素敵なことが起きてるっていう、そういう幻想なのかほんとなのかわかんない感覚のなかで、リハーサルからレコーディングまでかなり短い時間でつくり上げて。で、自分でも信じられないぐらい、映画との相性もあると思うんだけど、ストレートな歌詞ができたと思うし、ストレートな曲ができたと思う。その一端をROCK IN JAPANではみんなに届けられたと思うけど、100%は届けられてないんじゃないかっていう反省はありますね。あまりにもプロセスが素晴らしすぎたから。それは4人とも思ってると思う」


エレファントカシマシの物語とはまた違う意味での、純粋無垢なロックバンドストーリー。“Do you remember?”を明々と輝かせているのはそれだ。確かにそこには「青春」と呼ぶにふさわしい、リアルタイムの衝動と感動がある。《ガードレールにうずくまる ひとりの男あり》という光景で始まり、《さようなら/こんにちは》という言葉を経て《ただの男が立ち上がる/ありのまま 目にうつるこの世には/豊かな全てが広がってるのさ》というクライマックスへとつながっていくこの曲の歌詞に刻まれているのは、このバンドと出会うことで燃え上がった宮本の情熱そのものにほかならない。そしてその情熱はたった1曲、たった1回のライブではとても消化しきれないほどのものだった。だから「100%は届けられてないんじゃないかっていう反省はありますね」という宮本の言葉は、「反省」というよりもバンドマンの志として読むべきだ。この物語には語りきれていない続きがある。それがどんな形で爆発するのか、今から楽しみでしかたない。(小川智宏)


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