【コラム】もしかして、今一番面白い音楽番組は『関ジャム 完全燃SHOW』なんじゃないか?

【コラム】もしかして、今一番面白い音楽番組は『関ジャム 完全燃SHOW』なんじゃないか?

今、地上波テレビで観られる最も面白い音楽番組は『関ジャム 完全燃SHOW』じゃないかと個人的に思っている。音楽番組と言っても『関ジャム』はいわゆる歌番組、アーティストを迎えてのストレートなトーク番組とはかなり趣向が異なっている。この番組がユニークなのは、ホストの関ジャニ∞がゲストのアーティストと共に音楽の構造や歌詞の意図を解析、考察していくという、非常にマニアックなアプローチが堂々と取られている点だ。

音楽番組のゲストトークは、曲作りの背景やその曲を書くにいたった心境をアーティストに訊く、言わば「文系」な切り口で進められるのが通常パターンだ。でも、『関ジャム』の場合はそれに加えて楽曲を譜面レベルで展開して解説し、楽器や機材の使い方からスタジオワーク全般における作業まで必要とあれば突っ込んでいく、言わば「理系」の切り口もキーポイントになっている。そう、この番組のコンセプトはこれまでは音楽専門誌やケーブルテレビの専門番組などで「分かる人」に向けて発信されていたものに近い。それが深夜とはいえ開かれた地上波で一般層に向けて発信され、しかもエンターテインメントとしてきっちり成立していて楽しい、そういう絶妙なバランスで成り立っている番組なのだ。

2015年の番組開始当初はベテラン世代と若者世代のアーティストを一組ずつ招き、エイトとセッションするという構成が固定していたが、現在ではアーティスト自身、もしくはアーティストの関係者orファンのプロデューサーや作曲家といった裏方が登場し、そのアーティストの楽曲やアティチュードについて突っ込んだトークを実践交えて繰り広げる形式がメインになっている。そのほか、回によってはいちアーティストに限定せず、音楽シーン論やヒット曲論、ジャンル論といった各論から、音楽を切り口にカルチャー、風俗そのものを語るバラエティ回まで、その内容は実にフレキシブルで多種多様だ。

筆者が『関ジャム』を毎週かかさず録画予約するようになったのは、取り上げるアーティストに対しての自分の興味の有無とは無関係に、この番組は「音楽を語る」「音楽から語る」という点で一貫してむちゃくちゃ面白いと気づいたからだった。テーマがさだまさしだろうがマイケル・ジャクソンだろうが関係ない。あなたが「音楽」さえ好きならば、『関ジャム』は常に楽しいのだ。

マイケル・ジャクソンと言えば、エイトの先輩である東山紀之がマイケル・ジャクソンとの秘話を語りまくったのは神回だったし、蔦谷好位置とヒャダインが宇多田ヒカルの「声を張らないファルセットと不協和音」について解説した回もディープで忘れ難い。あれ以来、宇多田のアルバムの聴き方が私は明らかに変わったし、本当にこの番組に影響されまくりなのである。先々週回ではback numberがゲストの鬼龍院翔らと共に古今東西の名曲ラブソングの歌詞を徹底討論、途中からオタクの飲み会(しかも二次会)みたいな流れに突入していたのが最高だった。

先週のテーマはザ・ビートルズだった。そう、先のマイケルの例もあるように『関ジャム』では洋楽も当たり前に取り上げられるのだ。ゲストはいきものがかりやポルノグラフィティのプロデュースでも知られる本間昭光と、マイケル・ジャクソン研究家としても名を馳せる西寺郷太のふたり。いずれもビートルズのガチマニアと言っていい人たちで、「オマージュとパクリの差は愛とリスペクトの有無」だとする本間が、ビートルズにオマージュを捧げた例としてPUFFYやMr.Childrenらの楽曲を取り上げながら実演解説するという内容だった。

番組内で西寺も指摘していたけれど、オリジナル曲とオマージュ曲を聴き比べる際にドラム進行やベースラインだけを抽出したVTRをわざわざ作ってくるのがこの番組の徹底っぷりであり、『関ジャム』のコンセプトの根底を支えるものでもある。“サーキットの娘”と“I Saw Her Standing There”のベースラインの聴き比べは興味深かったし、“Ticket To Ride”のドラムが60年代当時いかに斬新だったかを西寺と本間が実演付きで解説してくれるのも非常に明快だった。そう、『関ジャム』ではゲストがその場でシャラっと即興で楽器を弾きつつ解説するシーンも多々ある。伝えようとしていることは非常にオタクなのに、そんな「音楽教室」ノリによって非常にフレンドリーかつ分かりやすく視聴者に伝わっていくのだ。
クライマックスは、エイトの代表曲の“ズッコケ男道”をビートルズ風にアレンジしてみるくだりだった。“ズッコケ男道”のメロディにビートルズの“Hello Goodbye”のコードとドラムを合わせてみたら、確かにビートルズ風“ズッコケ男道”に! これはもう関ジャニ∞というグループをよく知らなくてもビートルズが好きなら確実に面白いし、ビートルズをよく知らなくてもエイトのファンなら楽しい、そしてもちろん自分たちの楽曲の変貌っぷりにエイトのメンバーも大喜びなのだ。

これまでマニア内、玄人内で保管され、内々に受け継がれてきた豊富な知識と経験、音楽への情熱や愛という「宝」を、多くの人にむけて解放するチャンスになったという意味でも『関ジャム』は意義深い番組だと思うし、この番組が実現したそんなコアとマス、オルタナとメジャーの橋渡しは、関ジャニ∞というグループがいて初めて成立したものだ。
ジャニーズアイドルとして破格の一般性を持ちつつも、エイトは「バンド」というバックグラウンドを持ち、それぞれがプレイヤーであり、渋谷すばるを筆頭に多くのメンバーが熱烈な音楽、ロックラバーでもある。つまりエイトはコアとマス、オルタナとメジャーの両方の言語を持っている人たちで、本間たちの会話でぽんぽん出てくる「バイオリンベース」「Cコード・バラード」「カズー」といった単語を瞬時に暗黙の了解とできる人たちなのだ。その上でジャニーズきってのトーク回しの手練である村上信五が、「あちら側」の言語に補足し、分かりやすく噛み砕き、「こちら側」へと繋げていく。まさに関ジャニ∞の持ち味、強みを音楽において生かしきったナイスな番組なのである。番組の「支配人」というコンセプトでレギュラー出演している古田新太がぽろっと芯を食う発言をしてエイトをサポートしていく、というコンビネーションも絶妙だ。
ちなみに次回(2017年1月8日(日))のテーマは売れっ子音楽プロデューサーが選ぶ2016年のベストソング10曲。年間ベスト関連は各媒体ほぼ出尽くした感のある昨今だけれど、きっとそのどれとも異なる切り口で新しい「年間ベスト」の語り方、聴き方、そして楽しみ方を示してくれるはずだ。(粉川しの)
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