【コラム】結局“ヨシ子さん”って何者!?――桑田佳祐の新作を『SONGS』で堪能

【コラム】結局“ヨシ子さん”って何者!?――桑田佳祐の新作を『SONGS』で堪能

新曲“ヨシ子さん”について本人直撃!
23日夜に放送された、桑田佳祐出演のNHK『SONGS』。もう凄いやら、可笑しいやらで、ちょっとどうしたらいいのか分からなくなるような25分だった。「あなたの知らない『ヨシ子さん』の世界」「今夜初めて明かされる、桑田のメッセージとは」といった枕のナレーションを皮切りに、6月29日にリリースされるニューシングル『ヨシ子さん』に収録される4曲がいち早くスタジオライブで披露され、各界のファンと桑田のコメントを交えながら番組は進行した。

スタジオライブは、シングル『ヨシ子さん』の収録曲順ではなく、レトロファッションの女性ダンサーたちを迎え、甘酸っぱい記憶に触れるカリビアンポップ“愛のプレリュード”、情熱的な曲調と狂おしい歌詞で、サビに突入するメロディの展開にゾクゾクとさせられた“大河の一滴”、ストリングスセクションが加わって華やかな割に、とても人懐っこく軽快に繰り広げられたフィリーファンク風のダンス歌謡“百万本の赤い薔薇”、という順で演奏された。バラエティに富みながら、いずれも極上のノスタルジーに浸りダンスへと誘われる秀逸な桑田ナンバーである。

その合間に、角田光代、ロバート・キャンベル、萩原健太といった著名人たちがそれぞれに“ヨシ子さん”を読み解くコメントを残していくのだが、桑田は「教わりたくても教われなかった」エロ本の神秘が欲望の根本を形成したと熱弁を振るったり、「日本語を解体したグルーヴ」というキーワードについては「グルーヴねえ……僕ね、ファーストキスしたのが、あの、大船でね、グループ交際。小学校6年ぐらいだったんですけど」とはぐらかしたりしている。立川志の輔が初代林家三平の鉄板ネタ「よしこさん」に言及したところで、桑田も「ちょっとウケが悪いときに、この歌をアカペラで歌い出すんですよ」と、小気味良い節回しで再現してみせるのだった。


つまり“ヨシ子さん”とは——!?
“ヨシ子さん”ミュージックビデオ

現在YouTube上に公開されているMVはショートバージョンだが、『ヨシ子さん』特設サイト(http://special.sas-fan.net/special/yoshikosan/)ではフルバージョンのビデオや4曲の歌詞も公開されている。『SONGS』では、出演者コメントがむしろ謎を深めるようにしながら、“ヨシ子さん”のスタジオライブに突入していった。賑々しい演奏とダンスを幻惑的な映像として描き、《“サブスクリプション”まるで分かんねぇ》《「ブラックスター」でボウイさんが別れを告げた》というベテラン視点の歌詞が現在を切り取ってゆく。《「くよくよするな」ってディランが歌ってた》というフレーズは、“大河の一滴”の歌詞に散りばめられたボブ・ディラン曲の邦題とも重なって聴こえるようだ。

混沌としたまま無尽蔵のエネルギーを振りまく“ヨシ子さん”は、決して、時の流れを歌うのみに留まらない。言葉と音楽の化学反応によって天井知らずの高揚感を育み、「無意味」が最も重要で普遍的な「意味」へと反転する。そんな魔法のようなポップミュージックのプロセスを伝えている。斬新で、余りにも桑田佳祐な一撃である。時代は変わる。人々が求めたはずの変化の中で響く《Are you happy?》が、強烈な余韻として頭の中をリフレインしている。(小池宏和)
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