ミスター・ビッグ @ 日本武道館

ミスター・ビッグ @ 日本武道館
今回の来日ツアー招聘元のオフィシャル・サイトには、「日本のファンが育てたロック界のスーパー・スター」と銘打たれているけれど、たしかにこのミスター・ビッグほど「日本のファンが育てた」と称するに相応しいビッグ・バンドもいないだろう。3年ぶりの来日となった今回のツアーも、東名阪に加えて札幌、盛岡、仙台、広島、福岡を回る全国8都市ツアーで、こんなに細かく日本の地方都市を回ることができる海外アクトは本当に少ないし、それもまたミスター・ビッグと日本、日本のファンとの深い絆ゆえだと思う。昨夜の武道館も天井付近まで観客がぎっちり埋まり、根強い人気を伺わせていた。特に驚いたのが2009年の再結成以降にファンになったのだろう、10代後半&20代前半の若いファンも少なくなかったことだ。エリック(Vo)のJポップ・カヴァー『MR.VOCALIST』シリーズのヒットも大きかったのだろうが、それも含めてつくづく日本との親和性の高いバンドなのだ。

ほぼ定刻どおり開演したこの日のショウは1曲目からいきなりの“Daddy, Brother, Lover, Little Boy”でトップ・スタートを切った。ポール(G)とビリー(B)の電気ドリル弾きも早くも披露され、ジャストなタイミングでコーラスを繰り出していた観客から大歓声が上がる。ファスト&ラウドな“Daddy, Brother, Lover, Little Boy”からヘヴィ&ハードな“Gotta Love the Ride”へと畳み掛け、さらに荒っぽくもタイトに叩き付けるドラムスに圧倒される“American Beauty'”、ザクザクとグルーヴを刻み付けるベースが主役の“Undertow”と、ミスター・ビッグのハード・ロック的側面を大フィーチャーしたナンバーがノンストップで連打される。ちなみに今回のツアーはドラムスのパットがパーキンソン病の発病により「通常のドラム・プレイは不可能」とアナウンスされていた。パットの代わりにここまでドラムを叩いていたのは元キッスのエース・フレイリーのバンドでも活動していたマット・スターだ。
ミスター・ビッグ @ 日本武道館
そしてポールとビリーのインプロ応酬(圧巻!!)でスタートした“Alive and Kickin”からパットが合流し、タンバリンやパーカッションを担当する。パットがステージに登場すると、客席からは再び大歓声が上がる。彼の病気のことを今日ここに集ったファンはもちろん皆知っていただろうし、笑顔でステージに戻ってきた彼に惜しみない拍手が送られる。マーティンのヴォーカルを包むように全員のコーラスが重なり、マーティン、ポール、ビリー、パットの4人がついにステージに揃った感慨を呼び起こしていた。
ミスター・ビッグ @ 日本武道館
続く“I Forget to Breathe”は最新作『…ザ・ストーリーズ・ウイ・クッド・テル』収録曲でかなりファンキーな仕上がり。そして“Take Cover”、“Green-Tinted Sixties Mind”はこれぞミスター・ビッグとでも言えそうなシンガロング・アンセムで、場内のボルテージはここまでで最高値を記録する。ミスター・ビッグのナンバーにはポール・ギルバートとビリー・シーンという、当代きっての超絶技巧派プレイヤーが主導する器楽的カタルシスのナンバーと、破格の声を持つエリック・マーティンの魅力が全開となる情緒的ナンバーの両面の魅力があるけれど、ここまでの流れはそのふたつが絶妙にブレンドされたものだ。そしてそのどちらもメロディはあくまでもキャッチーでフレンドリーであるという点、これが日本で彼らが愛される所以かもしれない。

ポールのギター・ソロ・コーナーを挟み、ショウは後半戦へと進んでいく。“The Monster in Me”から“As Far as I Can See”までの3曲をザッツ・アメリカン・ロックなドライヴ感で突っ走ったところで小休止、パットを含む4人はメインステージから伸びた花道の先に作られた小さな出島ステージに移動、そこでエリックがアコギを担当してのキャット・スティーヴンスのカヴァー“Wild World'”、そして“East/West”の2曲を披露する。再びメインステージに戻っての“Just Take My Heart”と“Fragile”はこの日の本編で唯一パットがドラムスを担当したナンバーで、特に最新作のナンバーである“Fragile”をパットが叩いたことは今後のミスター・ビッグの活動、パットの闘病の先の未来に希望を確信させるものだった。ビリーのベース・ソロ・コーナーを経て、本編ラストは“Addicted to That Rush”だ。マーティンの呼びかけ「Boys!」「Girls!」「ミナサーン!」に応えて会場からは一際大きな歓声が上がり、コーラスも完璧に決まったフィナーレだ。
ミスター・ビッグ @ 日本武道館
ここまでで既に1時間45分が経っているが、メンバー紹介を経てすぐにアンコールが始まる。アンコール1曲目は“To Be With You”、ステージ後方の3面スクリーンには懐かしいこの曲のミュージック・ビデオが流れ、会場は大合唱と共に少しセンチメンタルな空気になる。しかし続く“Colorado Bulldog”はジャズ・テイストのリズムで再び会場をばきっと覚醒させ、そしてジューダス・プリーストのカヴァー“Living After Midnight”ではなんと全員でパートをシャッフルするというサプライズ演出でさらに会場を湧かせる。ちなみにマーティンがベース、ポールがドラムス、ビリーがギター、パットがヴォーカルというシャッフルだったのだが、ポールのドラムスがこれまたギタリストの余興の域をぶち超えたバカテクで腰を抜かしそうになってしまった。サングラス&ハードなライダースを着込みロブ・ハルフォードになりきったパットのメタル・ヴォイスも凄い。ラスト・ナンバーは再びパットがドラムスを担当してのフリーの“Mr. Big”、そして鳴り止まない歓声の中でビリーが少し長めの挨拶を、それは日本のファンへの感謝のスピーチだった。これもまたミスター・ビッグらしい、日本との近さを感じさせる幕切れだった。(粉川しの)

セットリスト
1. Daddy, Brother, Lover, Little Boy
2. Gotta Love the Ride
3. American Beauty
4. Undertow
5. Alive and Kickin
6. I Forget to Breathe
7. Take Cover
8. Green-Tinted Sixties Mind
9. Out of the Underground
10. The Monster in Me
11. Rock & Roll Over
12. As Far as I Can See
13. Wild World
14. East/West
15. Just Take My Heart
16. Fragile
17. Around the World
18. Addicted to That Rush

En1. To Be With You
En2. Colorado Bulldog
En3. Living After Midnight
En4. The Light of Day
En5. Mr. Big
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする